中国の習近平国家主席が、ロシアのプーチン大統領との共同記者会見で「ファシズムと軍国主義を復活させようとする挑発行為に反対しなければならない」と述べたと報じられました。
この発言を見て、日本国内では「日本のことを言っているのか」「中国やロシアの方が軍事的な行動を強めているのではないか」と感じた人も多いのではないでしょうか。
たしかに、日本の防衛費は増えています。反撃能力、長射程ミサイル、無人機、サイバー・宇宙領域など、防衛力強化の動きも進んでいます。
しかし、防衛費が増えたことだけで、現在の日本を「軍国主義復活」と呼べるのでしょうか。
この記事では、軍国主義という言葉の意味、習近平氏発言の背景、日本・中国・ロシアの軍事費の違いを比べながら、日本が本当に「軍国主義復活」と言えるのかを整理します。
この記事で分かること
- 「軍国主義復活」という言葉が何を指しているのか
- 習近平氏発言が日本を念頭に置いたものと見られる理由
- 日本の防衛費は本当に突出しているのか
- 中国・ロシアの軍事費と比べたときの違い
- 日本国内で「どの口が言うのか」という反発が出る理由
軍国主義とは何か

「軍国主義」という言葉は強い表現です。だからこそ、何を指しているのかを分けて考える必要があります。
軍国主義とは、一般的には軍事力や軍の考え方が政治・社会の中心になり、国の進む方向を大きく左右する状態を指します。
単に防衛費が増えることや、武器を持つことだけで軍国主義と呼ぶわけではありません。重要なのは、軍が政治を支配しているのか、国民生活より軍事を優先しているのか、他国への侵略や武力による現状変更を進めているのか、という点です。
この視点で見ると、現在の日本は戦前のように軍部が政治を主導しているわけではありません。自衛隊は文民統制の下に置かれ、政府や国会の管理のもとで運用されています。
もちろん、日本の防衛政策について議論が必要ないという意味ではありません。防衛費の増額、反撃能力の保有、武器輸出ルールの見直しなどは、国民がきちんと見ていくべき重要なテーマです。
ただし、それらをすべてまとめて「軍国主義復活」と断定するのは、かなり政治的な表現だと言えます。
習近平氏は何を発言したのか
報道によると、習近平国家主席は北京でロシアのプーチン大統領と会談し、その後の共同記者会見で、第二次世界大戦の勝利の成果を否定し、ファシズムと軍国主義を復活させようとする挑発行為に反対する趣旨の発言をしました。
発言の中で日本を名指ししたわけではありません。しかし、複数の報道では、日本を念頭に置いた発言と見られています。
中国は以前から、日本の防衛費増額、反撃能力の保有、台湾情勢への関与、歴史認識をめぐる動きを「軍国主義復活」と結び付けて批判してきました。
そのため今回の発言も、単なる歴史認識の話ではなく、日本の防衛政策や日米同盟、台湾情勢を意識した政治的メッセージと見る必要があります。
日本は本当に「軍国主義復活」なのか
日本の防衛費が増えていることは事実です。
2026年度の防衛予算案は9兆円を超え、防衛費と関連経費を合わせた額は約10兆6000億円、GDP比で約1.9%と報じられています。
防衛費の増額だけを見ると、日本の安全保障政策が大きく変わっているように見えます。実際、反撃能力、長射程ミサイル、無人機、防空、サイバー、宇宙など、これまでより広い分野で防衛力強化が進められています。
しかし、日本政府はこれを「周辺の安全保障環境が厳しくなっていることへの対応」と位置付けています。中国の軍事力拡大、北朝鮮のミサイル開発、ロシアのウクライナ侵攻などが背景にあります。
つまり、日本の防衛政策は変化していますが、それをそのまま「軍国主義復活」と呼ぶには、根拠が足りません。
現在の日本は、他国を侵略しているわけではありません。軍が政治を支配しているわけでもありません。防衛力強化をどう評価するかは別として、戦前の軍国主義と同じものとして扱うのは無理があります。
日本・中国・ロシアの軍事費を比較



感情論だけでは見えにくいので、日本・中国・ロシアの軍事費を数字で比べてみます。
各国の予算は、計算方法や為替レート、どこまでを軍事関連費に含めるかによって変わります。そのため完全な単純比較はできません。
それでも、公表されている数字を並べると、日本だけが突出して軍事費を増やしているとは言いにくいことが分かります。
| 国 | 2026年の主な軍事関連予算 | 見方 |
|---|---|---|
| 日本 | 防衛予算案は約9兆353億円。関連経費を含む防衛費は約10兆6000億円、GDP比約1.9% | 防衛力強化を進めているが、目的は抑止力強化と説明されている |
| 中国 | 国防予算は約1兆9100億元。日本円換算で約40兆円超の規模 | 日本の数倍規模。台湾周辺、南シナ海、東シナ海で軍事的圧力を強めている |
| ロシア | 軍事支出は14.9兆ルーブル、GDP比6%台とする分析がある | ウクライナ侵攻を続けており、実際に武力で現状変更を進めている |
この比較を見ると、日本の防衛費増額だけを取り上げて「軍国主義復活」と批判する構図には、強い違和感があります。
中国の国防費は日本の数倍規模
中国の2026年国防予算は、約1兆9100億元とされています。日本円に換算すると約40兆円を超える規模で、日本の防衛費と関連経費を合わせた約10兆6000億円と比べても、数倍の規模です。
さらに中国は、海軍力、ミサイル戦力、空軍力、宇宙・サイバー能力を急速に強化しています。
台湾周辺での軍事演習、南シナ海での実効支配強化、東シナ海での活動も続いています。日本周辺でも、中国軍機や艦艇の活動は安全保障上の大きな課題になっています。
その中国が、日本の防衛費増額を「軍国主義復活」と批判するため、日本国内では「どの口が言うのか」という反発が出やすくなります。
もちろん、中国側には「日本は過去の歴史を反省すべきだ」という立場があります。その歴史認識そのものを軽く扱うべきではありません。
ただし、現在の軍事費や実際の軍事行動を見ると、中国が日本だけを危険視する言い方には、政治的な狙いがあると考える方が自然です。
ロシアはウクライナ侵攻を続けている
ロシアについては、日本とはさらに状況が異なります。
ロシアは2022年からウクライナへの軍事侵攻を続けています。国連総会でも、ロシアに対して侵攻停止と軍の撤退を求める決議が採択されました。
つまり、ロシアは実際に軍事力を使って他国の領土や主権に関わる現状変更を進めている国です。
そのロシアと中国が並んで「軍国主義復活に反対」と語ることに、日本国内で強い違和感が出るのは当然です。
日本の防衛費増額については、賛否があって当然です。財源の問題、専守防衛との関係、周辺国との緊張を高めないかという点も議論されるべきです。
しかし、実際に侵攻を続けているロシアと、軍事圧力を強める中国が、日本だけを「軍国主義復活」と批判する構図には説得力がありません。
中露が使う「軍国主義」は外交上の言葉でもある



中露が使う「軍国主義」という言葉は、軍事費の多い少ないだけでなく、歴史認識や外交上のけん制として使われています。
中国にとって「日本の軍国主義」は、第二次世界大戦の記憶と強く結び付いた言葉です。
そのため、日本の防衛費増額、反撃能力、武器輸出ルールの見直し、台湾問題への関与、靖国神社、歴史教科書などが、一つの流れの中で語られやすくなります。
中国側は、日本の政策を一つずつ個別に見るというより、「日本が戦後の平和国家路線から離れようとしている」という大きな物語の中に置いて批判していると考えられます。
ロシアも、自国を「ファシズムと戦った戦勝国」と位置付けることで、相手を批判する言葉として「ファシズム」や「軍国主義」を使ってきました。
そのため今回の発言は、客観的な軍事費比較というよりも、中露が自分たちの立場を正当化し、日本や米国をけん制するための政治的メッセージとして見るべきです。
日本国内で反発が出る理由
今回の発言に対して、日本国内で反発が出る理由は大きく分けて3つあります。
日本より中国の国防費の方がはるかに大きい
日本の防衛費は増えていますが、中国の国防費は日本を大きく上回っています。
しかも、中国は台湾周辺、南シナ海、東シナ海で軍事的な活動を強めています。そのため、日本だけを危険視する表現には無理があると受け止められやすいのです。
ロシアは実際にウクライナへ侵攻している
ロシアはウクライナ侵攻を続けています。これは、軍事力による現状変更そのものです。
そのロシアと中国が「軍国主義復活に反対」と語ると、日本国内では「実際に武力を使っているのはどちらなのか」という疑問が出ます。
日本は他国を侵略しているわけではない
現在の日本は、他国に軍事侵攻しているわけではありません。
防衛力強化の是非は議論すべきですが、それを戦前の軍国主義と同じものとして扱うのは、事実関係として雑になります。
ただし日本も過去の歴史を軽く扱ってはいけない
ここで注意したいのは、「中国やロシアの批判には政治的な狙いがある」と見ることと、「日本が過去の歴史を忘れてよい」という話は別だという点です。
戦前の日本がアジア諸国に大きな被害を与えたことは事実です。その歴史を軽く扱えば、周辺国から警戒されるのは当然です。
だからこそ、日本は過去の歴史に向き合いながら、現在の安全保障政策を冷静に説明していく必要があります。
一方で、過去の歴史を理由に、現在の日本が周辺国の軍事的圧力に備えることまで否定されるわけではありません。
過去の反省と、現在の防衛政策の必要性は、分けて考える必要があります。
日本は防衛費を増やしすぎなのか
日本の防衛費増額には、国内でも賛否があります。
賛成側は、中国、北朝鮮、ロシアという安全保障環境の悪化を理由に、抑止力を高める必要があると考えます。相手に「攻撃しても成功しない」と思わせる力を持つことで、戦争を防ぐという考え方です。
一方で、反対や慎重な立場からは、財源負担が大きいこと、軍拡競争につながるおそれ、専守防衛との関係、外交努力の不足などが指摘されます。
つまり、日本の防衛費増額は、国内でしっかり議論すべきテーマです。
ただし、その議論と「日本は軍国主義に戻っている」という断定は別です。防衛費が増えているからといって、すぐに軍国主義復活と結び付けるのは短絡的です。
今回の中露発言は何を狙っているのか
今回の中露首脳会談では、両国の結束が強調されました。
中国とロシアは、米国主導の国際秩序に対抗する姿勢を見せています。その中で、日本は米国の同盟国であり、台湾情勢やインド太平洋の安全保障にも関わる存在です。
そのため、日本の防衛力強化を「軍国主義復活」と呼ぶことには、次のような狙いがあると考えられます。
- 日本の防衛力強化に国際的な警戒感を持たせる
- 日米同盟や台湾有事への関与をけん制する
- 中露が「戦勝国」としての立場を強調する
- 自国の軍事行動への批判をそらす
- 国内向けに対外強硬姿勢を示す
つまり、「軍国主義復活」という言葉は、事実をそのまま表す言葉というより、外交上のメッセージとして使われている面が強いのです。
まとめ:日本だけを「軍国主義復活」と呼ぶのは無理がある
習近平氏の「軍国主義復活に反対」という発言は、日本の防衛力強化、日米同盟、台湾情勢、歴史認識をまとめてけん制する政治的メッセージと見るべきです。
日本の防衛費は増えています。2026年度の防衛予算案は9兆円を超え、防衛費と関連経費を含めると約10兆6000億円、GDP比約1.9%とされています。
しかし、中国の国防予算は日本の数倍規模で、ロシアは実際にウクライナ侵攻を続けています。この現実を踏まえると、日本だけを一方的に「軍国主義復活」と呼ぶ構図には無理があります。
一方で、日本も過去の歴史を軽く扱ってはいけません。過去の反省と、現在の防衛政策の必要性は分けて考える必要があります。
防衛費増額の是非は、国内で冷静に議論すべきテーマです。しかし、現在の日本を戦前の軍国主義と同じように語るのは、事実関係を単純化しすぎています。
今回の発言は、日本が本当に軍国主義に戻っているというよりも、中露が歴史認識を外交カードとして使い、日本の防衛政策や日米同盟をけん制している構図として見る必要があります。


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