日本近海の海底にレアアースを含む泥が存在し、実際に深海からの採取に成功したというニュースが注目を集めています。
報道では「中国依存からの脱却」や「新たな国産資源」といった前向きな言葉が並びますが、果たして本当に日本はこの海底泥だけで、長年続いてきたレアアース供給の構造を変えられるのでしょうか。
期待が先行する今だからこそ、資源量、コスト、技術、そして環境の視点から、現実的にどこまで可能なのかを整理しておきたいと思います。
日本の海底泥レアアースとは何か
日本近海、とくに南鳥島周辺の海域には、レアアースを比較的高濃度で含む海底泥が広く分布していることが、海洋研究開発機構(JAMSTEC)などの調査で明らかになっています。
研究船ちきゅうを使った深海掘削によって実際にサンプルが回収され、「理論上は大きな資源量が見込める」という評価も示されています。
調査海域は南鳥島周辺で、日本の排他的経済水域内にある点も注目されています。
一方で、現在のレアアース供給は、採掘から精錬までを含めて中国が圧倒的なシェアを握っているのが現実です。
日本を含む多くの国が、中国からの供給に強く依存してきました。
資源量は十分でも「使える量」は別問題です
報告されている推定資源量だけを見れば、日本の需要を長期間カバーできる可能性があるとも言われています。
つまり、「海底に眠っている量」という意味では、決して夢物語ではありません。
しかし重要なのは、そこから「安定して、安く、継続的に」取り出せるかどうかです。
水深5000〜6000メートル級の深海から泥を回収するには、設備投資も運用コストも非常に大きくなります。
さらに、回収した泥からレアアースだけを効率よく分離・精製する技術も、まだ商業ベースで十分に確立されたとは言い切れません。
現実的には、理論上の資源量と、実際に市場に供給できる量の間には大きなギャップがあります。
このギャップを埋められなければ、「資源はあるが、使える形で出てこない」という状況にとどまる可能性もあります。
価格競争と供給安定性という壁
もう一つの大きな課題はコストです。
中国は長年にわたり大規模な採掘と精錬を続けてきた結果、価格面で強い競争力を持っています。
日本の海底泥レアアースが、中国産と同等、あるいはそれに近いコストで供給できなければ、企業は最終的に安い方を選ぶことになります。
つまり、「海底泥からレアアースが取れるかどうか」ではなく、「中国産に対抗できる価格と量で、どれだけ安定供給できるか」が本当の勝負になると言えるでしょう。
環境面では本当にクリーンなのでしょうか
中国のレアアース産業は、精錬工程での環境負荷が大きいことでも知られてきました。
その点、日本の海底泥開発は、陸上の大規模な露天掘りのような森林破壊や住民移転を伴わないという利点があります。
また、環境モニタリングを前提にした開発が想定されており、「環境を無視して掘る」やり方にはなりにくいと考えられています。
ただし、深海の生態系への影響については、まだ分からないことも多く残っています。
クリーンな資源だと断言できる段階ではなく、長期的な調査と慎重な評価が不可欠です。
「中国依存ゼロ」は現実的なのでしょうか
結論から言えば、海底泥レアアースだけで、近い将来に中国依存を完全に断ち切るのは現実的ではありません。
技術、コスト、環境対応のすべてにおいて、まだ越えるべきハードルが高いのが実情です。
ただし、供給の一部でも国内、あるいは準国産でまかなえるようになれば、それは大きな意味を持ちます。
有事や輸出規制リスクへの「保険」として機能し、日本の交渉力を高める材料になるからです。
まとめ
日本の海底に眠るレアアースは、資源量という点では大きな可能性を秘めています。しかし、それは「すぐに中国依存から脱却できる魔法の資源」ではありません。
現実には、深海からの採取コスト、精製技術の確立、価格競争力、そして環境への影響評価という複数の課題があります。
それでも、供給源を一極依存から分散させるという意味では、海底泥レアアースは極めて重要な戦略資源になり得ます。期待だけで語るのではなく、「どこまでできて、どこがまだ課題なのか」を冷静に見極めることが、今の日本にとって最も現実的な向き合い方だと言えるでしょう。


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