かつてソニーは、ウオークマンという一台のカセットプレーヤーで、音楽の楽しみ方そのものを変えた企業でした。
私自身、いくつものソニー製デバイスを手にし、気がつけば我が家のテレビは代々ソニー製でした。
それだけの信頼を寄せてきたからこそ、今回の「テレビ事業分離」「中国TCLとの合弁会社設立」というニュースは、単なる企業再編以上のものとして胸に残りました。
「また日本の技術が海外に渡るのではないか」
そんな不安を抱いた人も多いのではないでしょうか。
これは本当に“技術流出”なのか。
それとも、ソニーにとって避けられない現実的な選択だったのでしょうか。
ソニーはなぜテレビ事業を切り離したのか
ソニーがテレビ事業を分離し、TCLと合弁会社を設立するという決断は、突発的なものではありません。
長年、テレビ事業はソニーの中でも収益性の低い部門であり、価格競争が激化する中で利益を出し続けることが難しくなっていました。
高付加価値モデルでは一定の評価を得ながらも、
量産・価格競争の領域では、すでに韓国勢、そして中国勢が主導権を握っています。
今回の分離は、「技術を売った」というよりも、
事業として生き残るために、重たい部門を切り離した再編と見る方が現実的でしょう。
なぜ相手が中国TCLだったのか
TCLは、すでに世界有数のテレビ生産・販売企業です。
大量生産、低コスト、世界市場への供給力という点では、日本メーカーはもはや太刀打ちできない領域にあります。
ソニーが選んだのは、
- 技術開発は自社に残す
- 生産と量販はパートナーに任せる
という役割分担のモデルでした。
問題は、ここで多くの日本人が感じる疑問です。
その技術は、本当に守り切れるのか。
日本人が「技術流出」と感じてしまう理由
日本人がこのニュースに敏感になるのには、理由があります。
新幹線、家電、半導体、自動車。
日本は長い間、「技術で世界をリードする国」でした。
そして、実際に多くの技術が海外に移転し、
その後「自国技術」として扱われてきた歴史もあります。
だからこそ、
- 合弁
- 技術共有
- 生産委託
という言葉に、私たちはどうしても不安を覚えてしまうのです。
シャープに始まる、日本家電の身売りの歴史
今回のソニーだけが、特別な例ではありません。
- シャープは鴻海へ
- 東芝は分割再編
- 三洋は消滅
- NECは家電から撤退
かつて白物・黒物家電で世界を席巻した日本メーカーは、
この20年で次々と事業を手放してきました。
ここで、重要な問いが浮かびます。
本当に奪われたのは技術なのか。
それとも、日本企業が“事業として勝てなかった”のではないか。
奪われたのではなく、守れなかったのではないか
技術力そのものは、今も日本企業に残っています。
しかし、
- 価格競争への対応
- 世界市場でのスケール戦略
- 収益モデルの構築
これらで、日本メーカーは後手に回り続けました。
技術はあっても、
「技術を利益に変える仕組み」を作れなかった。
今回の再編は、
技術流出というよりも、
日本の家電産業が、事業として敗れた結果の一つと見る方が近いのかもしれません。
それでも、ソニーが失っていないもの
それでも、ソニーはすでに次の軸を持っています。
- 映像・音楽コンテンツ
- ゲーム
- イメージセンサー
ハード単体で戦う時代から、
技術とコンテンツを組み合わせる企業へと、すでに舵を切っています。
テレビ事業の分離は、
衰退ではなく、選択と集中の一環とも言えるでしょう。
まとめ(締め)
ウオークマンに憧れ、
ソニー製品を信じて使い続けてきた世代にとって、
今回のニュースはどうしても寂しさを伴います。
しかし、これは単なる「技術流出」の話ではありません。
- なぜ日本企業は、ここまで追い込まれたのか
- どこで事業としての勝ち方を失ったのか
- そして、日本の技術はこれからどこへ向かうのか
ソニーの決断は、
日本の家電産業全体が突きつけられている現実を、
私たちに静かに示しているのかもしれません。


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