2026年9月19日に開幕した第20回アジア競技大会(愛知・名古屋2026)では、日本をはじめアジア各国・地域を代表する選手たちが熱戦を繰り広げています。
競泳や卓球、トライアスロンなど、日本選手が上位に入る競技もあり、テレビで応援していると自然と力が入ります。
その一方で、大会開幕前後から気になる情報も伝わってきました。
海外選手団や関係者から、食事の量や種類、宿泊施設、移動など大会運営に対する不満がSNSや海外メディアを通じて発信されています。
なかでも気になったのが、テックボールのタイ代表関係者が公開した競技会場での食事でした。
国を代表し、体を張って競技するアスリートにとって、食事はただ空腹を満たせばよいものではありません。必要なエネルギーを補給し、コンディションを整えるための大切な競技環境の一つです。
さらに今回の大会を調べてみると、食事だけでなく、従来型の選手村を造らなかったことによる宿泊方式や、中国・上海を拠点とするCMG-IMPが国際映像を制作していること、大会経費が当初の想定から大きく膨らんでいることなど、テレビで競技を見ているだけでは分かりにくい大会運営の特徴も見えてきました。
- 選手から食事への不満が出たのはなぜなのか
- 大会の食事はすべて同じなのか
- 宿泊施設では何が起きているのか
- なぜ従来型の選手村を造らなかったのか
- なぜ中国のCMG-IMPが国際映像を制作しているのか
- 大会経費はいくらかかっているのか
- 国際大会で最も優先すべきものは何なのか
現在確認できている情報をもとに、一つずつ整理していきます。
愛知・名古屋アジア大会で選手の食事に不満が出たのはなぜ?
食事をめぐって注目されたのが、アジア大会で正式競技として初めて実施されているテックボールのタイ代表関係者による発信です。
日刊スポーツなどの報道によると、テックボール代表のコーチが競技会場で提供された昼食について、量が少ないと感じたことや、野菜料理を複数選ぼうとしても1種類に制限されたことをSNS上で紹介しました。
公開された映像では、自分で必要な量を自由に取るビュッフェ形式ではなく、スタッフが料理を盛り付けて渡す方式だったことも確認できます。
ご飯やスープ、鶏肉、野菜などが提供されていましたが、コーチは冗談交じりながらも「ほんの少ししかくれなかった」などと量の少なさを口にしていました。
さらに9月21日には、タイ選手団の関係者から、宿泊先で提供される食事についても量や種類などへの不満があると母国メディアに伝えたことが報じられています。
一つの映像だけで大会全体を判断することはできません。しかし、実際に大会へ参加している選手団から食事について不満が発信されたことは事実として受け止める必要があります。

国際大会なら、選手は必要な量を自分で取れると思っていたけど、会場によって食事の提供方法も違うんだね。
大会の食事がすべて少ないわけではない
ここで注意したいのは、愛知・名古屋アジア大会で提供されているすべての食事が、SNSで話題になった内容と同じではないことです。
大会組織委員会は9月19日、アスリート・プラザで選手に提供されている食事の動画を公式サイトで公開しています。
映像を見ると、肉料理や野菜、果物など複数の料理が用意され、選手が自分で選びながら食事を取れる様子が確認できます。
また、選手向けの大規模な食事提供については、さまざまな国や地域の料理、宗教上の食事制限などにも対応する体制が組まれています。
そのため、「アジア大会ではすべての選手に少量の食事しか与えられていない」とするのは正確ではありません。
むしろ疑問なのは、同じ大会に参加している選手の中で、食事を十分に取れる場所がある一方、実際に量や選択肢への不満が出た場所もあることです。
国際大会では多くの競技会場や宿泊施設を利用します。それでも、競技する選手が必要とする基本的な食事環境については、可能な限り同じ水準を保つことが求められるのではないでしょうか。
選手にとって食事は単なるサービスではない
旅行であれば、食事が自分に合わなければ別の店へ行くという選択ができます。
しかし、大会期間中のアスリートは事情が違います。
試合時間や練習、移動、休養、体重管理などを考えながら生活しなければなりません。
競技によって必要なエネルギー量は異なり、選手の体格によって食事量も違います。宗教上の理由やアレルギー、菜食など特別な対応を必要とする場合もあります。
だからといって、豪華な食事を用意する必要があるという意味ではありません。
必要な栄養と量を確保し、選手が食事のことを心配せず競技に集中できる環境を整えること。
それが大会で提供される食事に求められる最も大切な役割ではないでしょうか。
食事だけではない|宿泊施設でも選手から不満
愛知・名古屋アジア大会では、食事だけでなく宿泊環境についても海外選手や関係者から不満が出ています。
Reutersによると、今大会では選手や関係者約1万7000人を、ホテルや大型クルーズ船、仮設型の宿泊施設などに分散して受け入れています。
しかし大会開幕前には、ベッドのサイズや部屋割り、チェックイン、移動などをめぐって複数の選手団から問題が指摘されました。
韓国のバスケットボール選手からはベッドの大きさなどについて不満が出たほか、一部の選手団では独自に別の宿泊施設を確保する対応も取られています。
一方、大会側は24時間対応する窓口を設けるなど、寄せられた問題への対応を進めています。
IOCのカースティ・コベントリー会長もガーデンふ頭の宿泊施設を視察し、空調や静かさなどについて一定の評価を示しています。
つまり宿泊施設についても、すべてが問題というわけではありません。
それでも、大会へ参加する選手側から実際に改善を求める声が出た以上、その声に対応していくことが大切です。
なぜ愛知・名古屋アジア大会では選手村を造らなかった?
今回の大会の大きな特徴が、オリンピックなどで見られる大規模な選手村を新しく建設しなかったことです。
その背景には、大会経費を抑えることと、大会後に十分活用されない巨大施設を残さないことがあります。
OCA(アジア・オリンピック評議会)は、専用の選手村を建設しなかった理由について、大会後に使われなくなる「ホワイトエレファント」と呼ばれる施設を避ける考えを示しています。
大会のためだけに大規模施設を建てれば、建設費だけでなく大会終了後の維持管理も必要になります。
既存のホテルやクルーズ船、仮設施設を活用する方法は、将来の負担を減らすという点では合理性があります。



大会後に使わない施設を造らないのは分かる。でも、選手が十分に食べて休める環境とは分けて考えてほしいね。
施設を新しく造らないことと、選手が安心して休める環境を確保することは別の問題です。
コストを抑えること自体が目的になり、その結果として選手が競技以外の部分で余計な負担を抱えるのであれば、どこにお金を使うべきなのかという優先順位を改めて考える必要があります。
なぜ中国CMGが愛知・名古屋アジア大会の国際映像を制作している?
今回の大会についてもう一つ疑問を持つ人がいるのが、テレビで使われている国際映像です。
愛知・名古屋アジア大会では、中国・上海を拠点とするChina Media Group-International Media Port(CMG-IMP)がホストブロードキャスターを担当しています。
OCAによると、CMG-IMPは愛知・名古屋アジア競技大会組織委員会によってホストブロードキャスターに選任され、OCAの承認を受けています。
ホストブロードキャスターは、各競技の国際共通映像を制作し、放映権を持つ各国・地域の放送事業者へ提供する役割を担います。
つまり、「中国の放送局が日本国内のテレビ放送をすべて行っている」ということではありません。
日本ではTBSが大会を中継していますが、その放送で使用される競技の基幹映像については、CMG-IMPがホストブロードキャスターとして制作する競技があります。
| 役割 | 担当 | 主な内容 |
|---|---|---|
| ホストブロードキャスター | CMG-IMP | 国際映像の制作、放送権者への映像や設備・サービスの提供 |
| 日本国内の放送 | TBS | 日本の視聴者向けに大会を中継 |
OCAによると、CMG-IMPは28競技と開会式・閉会式をライブ映像として制作し、そのほかの競技ではENGによる映像提供を行う計画です。
CMG-IMPとの契約額は約51億5700万円
大会組織委員会が公開している契約資料によると、CMG-IMPとのホスト放送局業務委託契約は2025年9月16日に締結され、契約金額は51億5,692万1,572円となっています。
実は、それ以前の2025年4月には、スペインのINTERNATIONAL SPORTS BROADCASTING COMPANY S.Lと中国のYahao Sports Culture Mediaによる共同体「ISBHAO」が、同業務を26億1,888万8,800円で落札していました。
その後、契約をめぐる協議を経て、最終的にCMG-IMPがホストブロードキャスターを担当する形となっています。
当初の契約額と現在の契約額には大きな差がありますが、契約条件や業務内容まで完全に同じとは限らないため、金額だけを比較して高い・安いと判断することはできません。
それでも、日本で開催される大規模国際大会の国際映像をなぜ海外企業が担当しているのか疑問に思った人にとって、こうした経緯は知っておきたい情報でしょう。
愛知・名古屋アジア大会の経費は約3700億円規模の見通し
今回の大会運営を考えるうえでは、経費についても避けて通れません。
愛知県が2025年12月に公表した資料では、アジア大会とアジアパラ大会の大会経費は約2,980億円とされています。
これにインフラ整備や機運醸成などの大会関連経費を加えると、総額は約3,700億円規模になる見通しとされています。
| 大会経費 | 約2,980億円 |
|---|---|
| 関連経費を含む総額 | 約3,700億円規模の見通し |
当初はアジア大会・アジアパラ大会を合わせて約1,000億円程度が見込まれていましたが、物価や人件費の上昇、参加人数や競技数の増加、計画変更などが重なり、費用は大きく増えています。
国際大会では競技会場だけでなく、警備、輸送、宿泊、放送、情報システム、人員など多くの分野に費用が必要です。
限られた予算の中で無駄な支出を減らすことは当然必要です。
しかし、だからこそ「何を削り、何を優先するのか」が重要になります。
大会で最も優先されるべきなのは競技する選手ではないか
大会では多額のお金が動きます。
大会後に使われない施設への過剰な投資や、本当に必要なのか分からない支出があれば、当然検証されるべきでしょう。
一方、選手の食事、睡眠、移動、安全といった環境は、それらとは性質が違います。
出場する選手全員が競技に集中できる環境を整えることが、開催国の重要な役割ではないでしょうか。
メダルを取る選手だけが大会の主役ではありません。
今大会には45の国と地域からトップアスリートが集まっています。国籍や成績にかかわらず、それぞれの代表として日本を訪れた選手全員が競技の主役です。
施設が豪華である必要はありません。
食事も高級料理である必要はないでしょう。
しかし、必要な量を食べ、十分に休み、安全に競技会場へ移動し、余計な心配をせず競技に臨めることは、国際大会を開催するうえで大切にしてほしい基本的な環境です。
日本の「おもてなし」を国際大会でも感じてもらいたい
日本では「おもてなし」という言葉が世界にも知られるようになりました。
しかし、おもてなしとは豪華なものを提供することだけではないはずです。
相手の立場を考え、どのようなことを必要としているのかを想像し、不自由を感じないよう準備することも日本のおもてなしではないでしょうか。
現在は観光だけでなく、仕事や留学、スポーツなどさまざまな目的で海外から多くの人が日本を訪れています。
競技会場で食べた一食も、宿泊施設で過ごした一晩も、スタッフとのやり取りも、その人にとっては「日本で経験したこと」として記憶に残ります。
だからこそ今回、一部とはいえ日本を訪れた選手団から食事や宿泊について不満の声が発信されたことを、残念に感じます。



豪華でなくてもいい。日本に来た選手が「競技に集中できた」と思って帰ってくれたら、それが一番のおもてなしだと思うな。
大会は10月4日まで続きます。
開幕前後に問題があったとしても、運営側が選手の声を聞き、改善できることはまだあります。
実際、大会組織委員会の大村秀章会長も開幕時に「アスリートファーストで対応していく」としています。
その言葉どおり、選手を中心に考えた運営が最後まで続くことを期待したいところです。
まとめ|愛知・名古屋アジア大会は選手が主役の大会であってほしい
愛知・名古屋アジア大会では、各競技で選手たちが熱戦を繰り広げる一方、食事や宿泊、移動など大会運営をめぐって一部の選手や関係者から不満の声が出ています。
ただし、大会で提供されるすべての食事や宿泊施設に問題があるわけではありません。アスリート・プラザでは充実した食事が用意され、大会側も発生した問題への対応を進めています。
従来型の選手村を新設せず、既存施設やクルーズ船、仮設施設を活用する考え方にも、大会後に使われない巨大施設を残さず経費を抑えるという理由があります。
中国・上海を拠点とするCMG-IMPが国際映像を制作していることにも、ホストブロードキャスターという大会運営上の仕組みと契約の経緯があります。
こうした事情を踏まえたうえでも、大会運営の中心に置いてほしいのは、やはり競技する選手です。
どこの国や地域の選手であっても、十分に食べ、十分に休み、安全に移動し、自分の力を競技で出し切れること。
愛知・名古屋アジア大会が、日本らしいおもてなしとともに、最後まで選手を大切にする大会になってほしいと思います。


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